長崎市の隠れた夜景スポット「鍋冠山公園展望台」が、老朽化に伴ってリニューアルした。回廊形式の視点場では、ぐるりと周回しながら好きな眺めを自由に体験できる。軍艦島など5つの世界遺産を望める眺望を生かし、鍋冠山ならではの価値を創出した。
長崎市の観光地のグラバー園から南に約500m。市内の夜景を一望できる稲佐山展望台ほど有名ではないが、隠れた夜景スポットとして地元の人たちに親しまれてきた「鍋冠山公園展望台」が、施設の老朽化に伴ってリニューアルした。
新展望台の大きな特徴は、回廊形式の視点場だ。ぐるりと周回しながら、様々な眺めを体験できる。1、2階それぞれに、幅員約3mの展望デッキを新たに配置した。
2階に上ると、臨場感あふれる長崎港の景色が眼下に広がる。標高は169mで展望台としては高くないが、港を行き交う船や市街地を走る車の動きが見え、眺めていて飽きがこない。
旧展望台は、階段の踊り場が眺望スポットで、一度に10人ほどしか夜景を楽しめなかった。
そのため、「新展望台はバリアフリー化したうえで、大勢の人たちが同時に景色を鑑賞できる施設を目指した」。市まちづくり部みどりの課の坂本明洋氏はこう話す。基本設計を担当したオオバは、たたき台として3つの検討案を示した。
市の景観専門監として、鍋冠山公園展望台の計画・デザインを監修した九州大学持続可能な社会のための決断科学センターの高尾忠志准教授は、当時を次のように振り返る。
「3案ともスロープに次ぐスロープで、意識がバリアフリーに向き過ぎていた。それよりも、利用者にどのような体験や感動を提供したいのかということを考えてデザインすべきだとアドバイスした」。
高尾准教授は、観光客や市民に知名度がそれほど高くないこの場へ足を運んでもらうため、「鍋冠山ならではの価値をつくり、その魅力を分かりやすく表現することが重要だ」と訴えた。
市や建設コンサルタント会社と一緒に現地を観察する過程で生まれたのが、「世界遺産(当時は候補)が見渡せる展望台」というコンセプトだ。昼間は軍艦島や旧グラバー住宅など、5つの世界遺産が望めるという眺めの良さを生かし、デッキ案を発展させた「回廊形式」の提案につながった。同形式であれば、周回する動線のなかで点在する5つの世界遺産への眺めを自然に体験できる。
オオバ九州支店まちづくり部ランドスケープ課の松本識史主任は、「視点場が以前の“点”から“線”になった。好きな眺めの場所を自由に選んでほしい」と期待を寄せる。世界遺産を眺められる範囲の手すり部分はガラスとし、説明用のパネルを設置した。
供用後は、展望台を訪れた人たちの声にもできるだけ耳を傾けた。予算の制約上、リニューアル工事ではベンチを置けなかったが、利用者からの要望が多かったことから、急きょ移動式の簡易ベンチを配置した。関係者が苦心した鍋冠山ならではの魅力づくりは、整備後も続く。